2015年冬、豪クイーンズランド大学に入る前に、大学付属の語学学校が提供する、留学生向けの大学院準備コースに10週間通いました (https://icte.uq.edu.au/)。
バラエティに富んだカリキュラムで構成されていましたが、中でも印象的だったのが、リスニング強化の時間でした。
やり方は、TED (https://www.ted.com/)やABCのBehind the News (http://www.abc.net.au/btn/) などを視聴して、主に講師からのQ&Aに応えながらコンテンツの主題を深掘りしていく、というものでした。
記事や文献を速読したり(スキム&スキャン)、アカデミック英語の語彙を使ってエッセイを書いたりする地味な練習が多い中で、ビジュアルな教材で視覚・聴覚的に学べるあの時間が個人的にとても気に入っていました。
何より、映像は本当に訴求力が強い。当時見たコンテンツはもちろん今でもちゃんと記憶に残っているほどです。
その学校は、設備もかなり充実していて、特にTED授業のときはPC一人一台+ヘッドホンの環境で、与えられた制限時間内で自由に一時停止したり巻き戻したりしながら、内容のQ&Aに応えるという、一種の個別学習スタイルでした。だからこそ、強く映像が印象に残っているのかもしれません。
■ 日本語学校での、映像コンテンツ活用度は?
今、日本語学校はどのくらい映像コンテンツを授業で使っているのでしょうか。
ぼくが去年の夏まで働いていたベトナム、ハノイの学校では、とりあえず「みんなの日本語 会話DVD」は最低限の教材として準備されていて、あとは講師の裁量に任せて自由にパソコンを使ってよし、ということでした。
先生にもよりましたが、割と多くの先生が特にYouTubeのコンテンツを教材として使っていたと思います。
ただ、TwitterやZoomミーティングの情報によると、学校でのIT活用が未だ課題になっていることが多いということから、今のところは、まだ紙の教科書や紙のプリント教材が主流なのかなと推察されます。
また映像を使っていたとしても、一般的にはやはり教科書に対応した会話DVDや、教科書の内容を補足する短編YouTubeビデオなどが中心なのかなと思います。
■ 映像教材はメリット大
ただ、授業の効果として、映像の活用は、計り知れないほど大きいと思います。3つのポイントで。
ひとつは、学習者の目先を変えて、集中力をブーストできるということです。特に教科書を読んだり、何か問題を解いていたりするときに机に向かって下を向いて学習しますが、この集中力は実際ほとんど長く続きません。
また、文字の羅列の情報に依って学習していると、脳内も平面なままで記憶に広がりが出ません。
そこを、パッ、パッと映像を使うと、色がある・音がある・動くビジュアルによってたちまち情報が脳内で立体的に広がるような感覚をおぼえると思います。
角度を変えたインプット、と呼べるかもしれません。これによってある意味リラックスでき、ある意味新たな興味が湧き、ある意味、また集中力を取り戻すことができるのです。
次に、場面とセットになって記憶の定着を助けられるということです。前のエントリー(「こんなとき、何て言う?」- 場面写真を見て答える - Can-Do 千本ノック練習)でも書きましたが、語彙も文型も、そこに使う場面がなければ、アウトプット力を高めることはできません。
映像コンテンツは、画像よりもさらに記憶へのインパクトをもたらします(ときに、画像のほうが「考えさせれて」記憶に残る場合もあります)。
そして、3つ目が、リアルな日本語のインプットができるということです。
■ 映像コンテンツを積極的に使って、授業をやってみたい
日本人向けの普通の映像コンテンツは、もちろん話し方も語彙もスピードもリアルな日本語ばかりです。別に外国人の勉強用に意識して作りこんだものではありません。(参考: 発見! 日本のTVCMを活用した授業)
逆接的ですが、だからこそ、教材に使えるのです。口語すぎるからとか、ほとんど未習語彙だからとか、こんな言葉を覚えてもしょうがないから、とか、は教師側の<考え過ぎ>です。
そこにリアルな場面設定があれば、どんな早口の口語のセリフであってもリアルな日本語として活きてくるのです。【取捨選択は学習者が自分で行い、自由に学びを吸収】していきます。
例えば、今日まさに「逃げ恥(第2話)※英語字幕付き」を使って、会話授業をやりました。
ストーリー設定と巧みに織り込まれたコメディ的要素が気に入ったのか、まずフィリピン人に大うけでした。(全員、日本のTVドラマは初めて見た、と言っていました。)
かぶりつくように画面に見入り、知っている単語やフレーズが聞き取れた時に嬉しそうにリピートする学習者たち。また、英語字幕があれば、早口口語の応酬でも何ら問題ないことが分かりました。字幕からリバースして知らない日本語の言葉をキャッチしようとする雰囲気も感じられました。
短い場面を切り取っての、簡単な会話練習も盛り上がりました。何よりも本当のドラマですから、ストーリーがある中での文脈とセットでしっかりと頭に入るんですね。
(そういう意味では、国際交流基金の「エリンが挑戦! にほんごできます のスキット(https://www.erin.ne.jp/jp/) 」は、まさにこの目的でスクラッチで作られたんですね。すごいと思います。)
ですから、教科書の補助教材としてではなく、映像が主役の学習時間をもっと意識的に入れようと思います。
で、もちろん、授業で使うだけではなく、セレクトした映像は、学習者にYouTubeのチャンネルライブラリとして公開し、視聴を宿題にしたり、自律学習のアイテムとしても活用してもらえたらと思っています。
そして、こういうコンテンツ探しがまた楽しかったりします・・・。じゃ、またーー。