もともとの発端は、自分なりの授業リフレクションからでした。生徒ともいい関係を築き、授業の雰囲気もとても良かったのにも関わらず、(間違いを恐れて)なかなか日本語を話そうとしなかった学習者が数名自分のクラスの中にいたこと。
そして自分なりに辿り着いた結論が「最初から文法の正確性を意識させ過ぎたことが学習者のストレスを生み、発話を委縮させてしまったのでは」という仮説です。
その後、SLA(第二言語習得)やCEFRの記事や本などを読み漁った結果、確信に変わりました。
-(文法)ルールとしては簡単に頭で理解しても、そのルールを必ずしも使えるようにはならない。
- 複雑な言語ルールを全て明示的知識として習得することは不可能。
そう、みん日に代表される、文型積み上げ式教科書の明らかな限界。夥しい数出てくる文型一つ一つを数学の公式のように理解して覚え、それを実際のコミュニケーション現場で応用していくというやり方の限界。そしてテストはその文型・文法の正確さを厳しく問う、ストレスのかかるものだということ。
これにしっかりとついてこれる学習者はクラスの中で2~3割ぐらいでしょう。どこのクラスでもいる、成績上位者たち。ただそれでも(例え初級を順調に進み、問題なくN4を取ったとしても)コミュニケーション力が高いかというとそうとも言い切れません。
正確性の罠に陥り、助詞や文型、テンスなどのことばかり考えてなかなかブレークスルーしない。
頭の中で分かっていながらも、ときに学習者の自己学習努力の少なさなどに責任を押し付け、クラスの中で半数近くの「しゃべれない学習者」を育ててきてしまったのです。本当に講師として反省するばかりです。
じゃ、どうしたらいいか、と考え、チャレンジしていることが、今までの真逆。「文型を教えない(導入しない)」授業です。
■ 教科書の文型を一つ一つ覚えなくてもいい
そもそも、日本語のあらゆる表現を「文型」として分類して教え込むということそのものが非現実的なのではないでしょうか。それを覚えるという作業がコミュニケーションまでいく道筋をかえって邪魔しているのでは、と考えました。
ということで、先月から試しているのが、「文型らしき法則」は、ダイアローグと応用活動の中から各自でイメージして(仮説を立てて)やってみてOKです、違うときは「修正的リキャスト(正しい言い方で講師から言い直す)」というやり方です。
ベテラン講師が聞いたら鼻で笑って否定されるかもしれませんが、これが実際機能しているのです。今まで二週間ちょっとこのやり方をとっていますが、文法テストの結果も前のクラスと比べて決して遜色ありませんでした。
何より、圧倒的に発話の量が増えました。数学の公式にあたる、文型通りに話さなくてもいいからです。
例えば、何かの場面で英語で「いやいや、それだけじゃなくて、これもそうだよ」と言いたいときに、Not only A but also B という公式を思い出して、当てはめて、話すというやり方がありますが、もし仮にこの文型(構文)を思い出せなかったらどうなるでしょうか。
そして、そういう文型(構文)が山ほどあるとしたら、語学の学習は楽しいものでしょうか。そして実際のコミュニケーションの場に結び付くでしょうか。
別に文型(公式)に当てはめなくてもいいのです。思い出せなくてもいいのです。自分の持っている言語力で意思疎通できればいいのです。
だから、その場面に応じて言いたいこと(=達成したいタスク)があって、自分が勉強したダイアローグから【自分なりの文法で応用して】、最初は粗削りでもいいからとにかく発話してみる、ということです。
文法が違ったら違ったで、アウトプット(意味を成さないギャップ)⇒インプット(通じる言い方)の流れで修正し、さらに定着度が増すと期待できます。
■ 肝は、ダイアローグの十分な練習と、インタビュー活動
今、ベースにしている授業の流れは、カーネギーメロン大学の第二言語習得研究者 甲田慶子教授が開発した、シンプルなプログラム。
- 各課ごとに、よく使われる構文・表現が多く入った会話を暗記
- 授業の中心はその日に学んだ文法項目を使った学生どうしのインタビュー(自分やクラスメートの出身、趣味、家族など身近な話題についてお互いインタビュー)
- インタビューで得た情報をメモして、宿題で自分やクラスメートについて書く
実際、ゼロからはじめた学生が、50分 x 週4回、3ヶ月で学期末には「15分間」会話ができるようになる、というもので、他の大学でも実施されて成功例が報告されています。(「英語教師のための第二言語習得論入門」白井 恭弘著)
で、さらにぼくはインプットを増やすために、最初の会話の部分に多く時間を費やしています。ダイアローグは主に「げんきI」を使用。
- 聴く前に、いくつか内容に関する質問(True & Falseや3択など)を挙げて、アテンションを高める
- リスニング
- 質問、再度リスニング
- スクリプト配布、英訳を確認(その間も会話音源を何度も流す。自主的にリピートする学習者もいる。)
- 再度質問⇒ ここでほとんど回答できる。
- スクリプトを見ながらリスニング&リピート(文字と音とのマッチング)
- リスニング&シャドウイング
- ペア会話練習(頻繁にペアを替え、飽きさせない。この段階でだんだん暗記できてくる)
- 身振り手振り、表情、抑揚、小道具の使用などに対して+評価すると伝え、固定ペアでさらに練習
- ペアで実際に会話(スマホでビデオ撮影⇒ のちにYouTubeへアップロード)
ここまでやると、場面と意味を伴った日本語表現がじわじわと自分の中に構築されてきます。
■ 文法は軽く触れ、活動。最後に文法チェックドリル。
そして、そのあと、「さらっと」軽く文法に触れます。キーとなるセンテンスに蛍光ペンを引いてもらい、ささっと板書します。学習者は単語の意味も文の意味も分かっているので、ここで初めて文法にスポットライトを当てます(文型じゃありません)。
例えば、いくつか応用の例文を挙げて、こう言いたいときは何て言うと思う? じゃ、これは?という風に学習者とQ&Aを重ねながら、
- 学習者の頭の中にうっすらある文法仮説を検証し、
- いくつかの例文を挙げることで「文型らしきもの」を浮かび上がらせます。
NはNをVとか、数学公式のような文型は一切説明しません。この状態で、活動(主に学習者同士のインタビュー)を実施します。自分ゴトを話す活動なので、必然的に質問が多く挙がります。既習語彙とか未習語彙とか全く無視。とにかく自分の言いたいことを表現してもらいます。
そして机間巡視しながら、エラーを修正していきます。活動終了後、こちらからQ&Aしていき(Wrap up)、最後に、みん日の「問題」か副教材「書いて覚える文型練習帳」などで文法チェックドリルを行います。ここで改めて自身で文法を意識し、自己確認・自己修正していくという流れです。
この骨組みに大変手応えを感じています。というのも、学習者がストレスを感じていないからです。そして鬼門の課毎の定期テストもそこそこできているからです。
つくづく、外国語学習というのは、外国語を使ったコミュニケーションの運用能力を高めるものであって、文型や知識を教え込むものではないんだな、と感じています。
細かい文法は知らないけど、「この場面だったら、たぶん日本語ではこう言うよね」と臆することなく発話できる学習者を育てていきたい。これからまだまだ磨きをかけて、さらに「多読」のほうのインプットもいいやり方を取り入れていきたいと思っています。
じゃ、またーー。