どうも、ぬの★セブです。
今回のトピックは、インプット。最近、改めて「外国語の習得って、本当にインプットの量が大事だなあ」と思っています。しかも、ただ漫然と耳や目から入ってくればいいというものでなく、【相手の意図や文脈を理解できる】インプットの総量。これが足りない状態で外国語を習得するのは、きわめて難しいのではと思います。
ですので、日本語教師に限らず、ほとんどの語学教師の方々が何らかの形でリスニング、動画視聴、読みものなどのインプットを授業で取り入れていることと思います。
ぼく自身も、よく聴解音源やYouTubeなどのコンテンツを多用しますが、授業スタイルが「タスク型」のため、学習者に何かをやってもらうという時間のほうが結果的に多くなっているかもしれません。
そんな中で、最近、2週間ほど前から、自分の担任以外のクラスにおいて本格的にALT (Assistant Language Teacher)を担当することになりました。(よく日本の小中学校の英語の時間などで、ネイティブ教師が日本人教師の授業に入って一緒に授業を行うという、あれです。)
フィリピン人講師の日本語クラス(初級前半)の中で毎週1時間ずつALTとして入って、ぼくがメインでのペアティーチングを行うというものです。
さて、どんなことをやろうかなと考えを巡らせ、今やってみているのが「TPRS: Teaching Proficiency through Reading and Storytelling」です。簡単に言うと、《インタラクティブに学習者とやりとりしながら、物語を話していく(または作っていく)、それをとおして外国語を学ぶ》というものです。
(前回の記事:「文法は勉強しない。自然に習得する」・・1年でアラビア語をマスターしたBrown教授のドキュメンタリー で、Brown教授がTPRSをすすめていたので、ちゃんとやってみたかったというのもあります^^。)
いざやってみると、「授業でこんなに喋ったのは久しぶりだなあ」と喉もやや枯れるほどでしたが、学習者のことばの吸収度合いという意味では、かなり手ごたえがあるものでした。
合計4~5回ほど実施して、いろいろわかってきたので、この記事でシェアしたいと思います。
TPRS素材として、多読本を活用
フィリピン人講師のクラスでは「みんなの日本語」を使っていて、ゼロ初級から始めてちょうど1か月が経ったぐらい。第4課をちょうど終えたところとのことでした。(みん日ご存知の方はそれをふまえてお読みいただけると、わかりやすいかと思います)
TPRSはいろいろなやり方があって、複数の写真やイラストを使ったり、動画をこまめに一時停止しながら進めたり、またはホワイトボードに教師がイラストを描きながら物語ったり、とバラエティーに富んでいます。
今回ぼくは、担任クラスで普段から多読で使っている「レベル別 日本語多読ライブラリー」を使いました。ピックアップしたのは、レベル0の『木村家の毎日 「いってきます」』です。
スキャンしたものをラップトップから液晶テレビに映し、みんなで見ながらTPRSをスタートします。これは、最初のページです。
いきなり読み聞かせ始めるのではなく、まず、絵(場面)に注目してもらいます。太字は学習者のレスポンスです。
「朝ですね。(時計を指差し)何時ですか。- 7時です。」
人物を指差しながら、「これは、由美です。これは一郎です、由美のお兄さんです。これは・・お父さんですか。- いいえ、お母さんです。」
「朝です。由美は元気ですか。- はい、元気です。」
「朝ですね。朝ごはんを食べます。由美は何を食べますか。- パンです。パンと・・? - たまごです。」「何を飲みますか。- コーヒーです。/牛乳です。/水です。」「そうですね。一郎も・・・? - パンを食べます。」
(新聞を指差し)「これは何ですか。- 新聞です。」「そうですね。朝です。新聞を・・・ 読みます。」
そしてストーリーを読み聞かせ始めます。
上の絵だと、学習者は「言います」という動詞をまだ習っていません。でも、この絵と文脈があれば、全く問題ありません。
《由美が言います。「おはよう」》 +少しジェスチャーを加えれば、だれでも「言います = say」ということを理解できます。ホワイトボードの《ことばリスト》に「言います say」と書きます。
このように、絵に注目して十分に場面設定・人物設定を共有しながら、読み聞かせをすすめていきます。ポイントは、常に学習者に質問しながらすすめることです。
Yes/Noの質問、Either orの質問、5W1Hの質問、ときに物語から離れて学習者自身について質問、など【インタラクティブに語り進める】ことで、学習者を物語の一部として引き込んでいきます。
語彙や表現も、学習者の反応や好奇心、レベルなどに応じて広げていきます。上の絵でも、バター、ジャム、エプロンなどの名詞や、髪が長いです/髪が短いです、などの表現などに触れることができます。※文法や文型には触れません!
何度も聴く、そして読む
LIVE紙芝居風に進めていき、ひととおりストーリーの読み聞かせが終わったら、ペアや3人グループになってもらいます(席を動くことでワンクッション入ります)。そしてそれぞれのペアに本を配ります。
次にCDの朗読を聴きながら、読んでもらいます。まず絵をよく見てもらうように依頼します。そして指やペン先などを使って、音声と絵の描写をマッチングしてください、と伝えます。
※日本語多読ライブラリーは、程よく効果音など入っていて、場面がイメージしやすくなっています。(机間巡視しながら、様子をチェック! 必要に応じて個別にフォローします。)
そしてさらに、もう一度、CDの朗読を聴きながら、今度は音声と文字とマッチングしてもらうように伝えます。(このあたりから、ぼそぼそ声に出す学習者が増え始めます)
それから、今度は明示的にCDと同時に音読してもらうように伝えます。立ってもらい、声色をまねして、ジェスチャーも加えて俳優のようになりきって!も忘れずに。
最後に、CDなしで、学習者だけでもう一度音読してもらいます(1ページずつ交代にペア相手に読み聞かせ、でもいいと思います)。
これで、だいたいトータル45分ぐらいの授業になります。お気づきになったかもしれませんが、教師のインタラクティブ朗読(1) + CD 3回 で、同じ話を4回聴いていることになります(絵と文脈がある中での、理解できるインプット量を確保)。また途中で絵から必要に応じて新しい語彙や表現を導入しているので、それも含めてのインプットになっています。
仕上げに、ホワイトボードに書いた《ことばリスト》をざっと一緒に読み上げ、各自スマホで撮ってもらったりしますが、ストーリーの中で音声で何度も聴き、自分でもストーリーに沿って音読しているので、既にある程度なじみ深いものになっています。
語彙の絵カードが全て本の中にまとまっているとも言えるかもしれません。
もっと言ってしまえば、品詞の種類も活用もあまり関係ありません。《絵を描写するもの/物語ることばや表現》として、まるっと文脈と紐づきで導入・共有してしまいます。意識が(文法面ではなく)ストーリーに向いているからこそ、理解できるインプットになっているのだと思います。
まとめ
TPRS: Teaching Proficiency through Reading and Storytelling の効果的なところは、
- ビジュアルがあること
- ストーリーがあること
- インタラクティブであること
で、理解できるインプットの量を確保できることです。そしてこれを通じて、語彙や表現を豊かに広げていけることです。
また学習者との掛け合いがはまればはまるほど、活気のあるLIVE授業になります。授業中、講義的に何かの説明で長々と教師が話すのは、時間がもったいないと思いますが、(インタラクティブな)ストーリーテラーとして自分の声を使えるのはとても有効だと思います。
教室を一歩出れば、ほぼ日本語に触れることのないフィリピンだからこそ、教室でストーリー+LIVE日本語のインプットに存分に浸ってもらえるのは価値があるんじゃないかと思うのです。
これからもいろいろバリエーションを試し、TPRSのやり方を洗練させていきたいと思っています。じゃ、またーー。
P.S. ちなみに、やり方はこの動画を参考にしました。韓国の中学校?の英語のクラスだと思います(3分30秒ぐらいから~)。なんとなく雰囲気がわかると思います!