どうも、ぬの★セブです。・・・最近、ほんとうに授業で教科書を全然使わなくなってしまいました。
というのも、ここ数か月行っていた授業と学習者の反応や成果をとおして、自分の中での教材の優先順位が入れ替わってしまったからです。
- 以前: メインの教科書や「学習用」副教材>> サブとしてオーセンティック教材
- 現在: オーセンティック教材メイン>> サブとして教科書や「学習用」副教材
少し前の記事で、こんなことを書きました。
数か月前からは、ぼくの担任クラスでは、帯活動の中で必ず数分オーセンティック素材を使い、自然な日本語に触れつつそこから語彙や表現を増やしたり、文化の違いのディスカッションをしたりしています。(⇒ NHKニュース、YouTubeでのスピーチやインタビュー、TVドラマや映画の切り出し、映画の予告編、エリンが挑戦、そしてTVCM!など)
それが主従逆転してしまい、いわゆる自然な日本語、学習者向けにアレンジされていない野性の日本語から成るコンテンツをメインに据えて、それを通して自然なリズムや表現、言い回しなどを含めた《日本語》を共有していくところからスタート。
>> そして、何かの表現にフォーカスしたい場合や、場面設定を再度確立してより分かりやすく習得をしてもらいたい場合に、サブ教材として教科書「まるごと」や「できる日本語」(音源を含め)を使う、という流れです。
さらに、最近ことあるたびに「TPRS: Teaching Proficiency through Reading and Storytelling(ストーリーテリングを通した言語習得)」をあれこれ試していまして、先週もYouTube上のインストラクション関連の動画やアニメなどを使ってみました。
その中で今回は、あるアニメのオープニング・シーンを使って、TPRSを実践した例を紹介したいと思います。(※参考記事:授業で教師がたくさん話す・・? でも、これならいいと思うんです。⇒ ストーリーテリング (TPRS))
アニメ『日常』第8話の冒頭シーン(1分半ほど)でTPRS
先週使ったのは、ほのぼの系コメディアニメ『日常』の第8話です。『日常』は、それぞれのシーンが短くて、テンポよく進むので飽きないのと、登場人物の「東雲なの(ロボット)」が常にゆっくりとした「です・ます調」で話すため、初級の学生でも比較的わかりやすい、親しみやすいアニメだと思います。
(以前、第4話の「スーパーでの買い物シーン」も、授業の素材として使ったことがあります。)
TPRSで使った、第8話のオープニング・シーンは、朝の風景を描いたものです。セリフは少ないのですが、それがかえって描写系のストーリーテリングがしやすく、長さも1分半ほどなのでストレスなく繰り返し見られて、なかなか使い勝手よかったと思います。
今回、TPRSでは、こまめに一時停止しながら、状況とストーリーを描写していきました。【対象は、ゼロ初級から8か月目のクラスです。】
まずは、こんな風景から始まります。
※「・・」はぼくの語りと質問、-太字は学生のレスポンスです。
- 「おお、空が青いですね。青空ですね。いい天気ですか。」 - はい、いい天気です。
- 「(雲を指差し)、空に・・・」- 雲、・・雲です。・・雲があります。
- 「はい。雲がありますね。その横のこれ(電柱を指差し)は何ですか。」
- - Electric Pole? ざわざわ・・
- 「でんちゅう、と言います。(漢字をWBに書く)電気の・柱、で『電柱』です。(もう一度指差し)これは何ですか。」 - 電柱です。
- 「電柱が何本ありますか。」- 1本あります。
- 「フィリピンにも電柱がありますか。」- はい、あります。
- 「(実際、窓から外を見て)あ、そこにも、あそこにも、たくさん電柱がありますね。」
少し再生して、また一時停止。
- 「はい、これは何をしているところですか。」- 水が出ます。水を出します。
- 「水を出す、だけですか? ・・花に・・?」- 水をやります。
- 「そうですね。花に水をやっています。または、花に水を・・」- あげています。
- 「そうですね。広い庭なので、庭に水を『まく(ジェスチャー)』とも言いますね。庭に水を・・・(ジェスチャー)」-まく。
- 「はい、ところで、この花の色は何ですか。」- ピンクと青。
- 「そうですね。この花は、いつ咲きますか。季節はいつだと思いますか。」-んー、春? 秋です? ?夏・・
- 「夏です。この花は日本語でアサガオと言います。夏に咲く花です。日本の夏は何月ごろですか。」- 4月?5月?(笑)・・
- 「主に7月と8月が夏です。その前の6月は雨が多い季節ですが、何と言いますか。覚えてますか。」- (しばらくして・・ノートから見つけ・・)つゆ!
- 「ですね。「梅雨」です。6月の梅雨が夏の始まりですね。」
- 「今、女の人が庭に水をまいています。これは、朝ですか。昼ですか。夜ですか。」-朝です!
- 「どこに水をまいていますか。」- 花! 庭! に 水をまいています。・・・
こんな感じで、一時停止して、つねに学生に問いかけながら、すすめていきます。
自然な日本語に、自然に出会う
セリフの少ない、こんな短いシーンの中にも、口語(縮約形)を聞くことができます。
庭の水まきが終わった後、ロボットの「東雲なの」が時計を見ます。8時5分。そして、こう言います。「そろそろ 博士を起こさなきゃ。」
この場面で発したセリフを、今一度全員で言ってみます(だいたいの学生が「音」としては聞き取れていました)。そして、場面と意味を確認します。「どんな意味?。」声色を真似しながらもう一度。・・さらに、起きる、起こすの違い。《~なきゃ》が元はどんな表現の縮約形なのか、なども併せて軽く復習します。
そして、その次のセリフ、「朝ごはん食べたら、どっか散歩でも行こうかな・・。」
これもほとんどの学生が聞き取れていましたが、「『かな』ってどんなときに使う?」と質問して、例文を挙げたりしてもらいながら使い方を確認しました。
そして、この1分半のオープニングのオチは、ロボットの「東雲なの」が腕を伸ばしてストレッチしていたら、腕が外れてロケットになって空に飛んで行ってしまう、という・・荒唐無稽で予想外なもの。
これも、東雲なのがストレッチした時点で一時停止して、「さあ、この後、どうなると思いますか? 」などみんなで予想し合ったりして、エンディングを楽しみました。
Quizletで、語彙を自習(10分)
もう一度、今度は一時停止せずに再生して、シーンの流れをひととおり観てもらった後、再度こう伝えます。「じゃ、後で、今度はみんなにストーリーテリングをしてもらいますよ!できるよ、楽しいよ!その前に10分ぐらい、語彙を各自Quizletで復習してくださいねー。」
ということで、Quizlet化した語彙の自習の時間をとりました。視点が各自の手元のスマホに移り、自分で取り組む時間を持つことでいいメリハリがついたと思います。
そして、これが(意味に加えて)各自で、音と文字をマッチさせる時間でもあります。
ペアワーク、そして最後に全員で1分半、日本語でストーリーテリングし続ける
Quizletの自習終了後、まず、ペアになってもらい、一時停止ごとにペアで交互にストーリーテリングしてもらうというタスクを行いました。ルールはひとつだけ=単語だけで終わらず、必ず文で話すこと。(語彙に少しつまりながらも、ペアで助け合い、なんとか乗り切っていました。)
次に、音量を下げて、一時停止せずに流し再生しながら、今度はぼくがストーリーテリングしました(見本です:))。「(学生)おおーっ」という歓声・・。無声映画の活動弁士wみたいな感じです。
最後にいよいよクラス全員でノンストップでストーリーテリングにトライ!
もちろん、きれいに・・揃って・・とはいきませんでしたが、前方のスクリーンの動画を見ながら、とにかく1分半、日本語で描写し続けることができ、みな達成感を持っている様子でした。
授業はここで時間切れとなってしまいましたが、さらに、話したあらすじを作文で書いてもらうという1タスクを最後に加えてもいいと思います。
まとめ
自然な日本語で、物語である(文脈がある)、親しみやすいキャラが動くビジュアル・・・。改めて、コンテンツとしてのアニメは強力だなと思いました。
ぼくたち日本語教師はアニメでも、つい「セリフ」のほうに意識が向きがちですが、逆にセリフがほとんどないシーンでもそこに風景や状況やストーリーがあれば、TPRSの素材として使うことができるものです。
考えてみれば、全くスクリプトのない状況で、最終的にはみんな1分半、動画を見ながらそれなりに日本語を話し続けられるのですから、物語ビジュアルは素材として効果的ですし、印象・記憶に残りやすいのだと思います。
語彙や表現を学ぶために “作られた「学習用映像」” ではなくて、先にエンタメとしての生のコンテンツがあって、そこからことばを学んでいくという逆転- CBLL: Content-Based Language Learning。そして、それを《理解可能なインプット》として再構成するTPRS。
直球の「日本語を学ぶ」というより、〇〇を通して日本語を学ぶ、という変化球。変化球(〇〇というコンテンツ)が効果的なほど、直球も活きてくる。そんなことを考えながら、また今週、来週も学習者の反応と成果を見ながら、いろいろ試してみたいと思います。
↓↓↓ ちなみに、やり方については、このサイトを参考にさせていただきました。
じゃ、またーー。
項目 『動画を見て、状況やあらすじを英語で実況する “Movie talk”』
五感をフルに使って英語を楽しむ!
英語を英語のまま理解し、 積極的なアウトプットを促すネイティブパートの授業 ≪中1編≫ (1) https://www.seg.co.jp/report/10812/