どうも、ぬの★セブです。
日々の授業もほんとうに楽しいものですが、先々月から始めた毎週末のフィリピン人新人教師向けワークショップも、すごく楽しんでいます。
というか、講師のぼく自身が得るものたくさんあって、ありがとうと言いたいぐらいです。
今回、新規のグループで第3回目のワークショップ。まず受講生のみなさんに模擬授業をしてもらったあと、ぼくもフィードバック代わりに《自分だったらこんな感じでやりますよ》という模擬授業を行い、さいごに「授業で文法をどう扱うか」というディスカッションをしました。
使っている教科書が「まるごと」で、Can-doステートメントを達成していく「行動中心アプローチ」型の授業が受講者のみなさんに新鮮に映るとともに、とても手ごたえがあった様子でした。そしてまた改めてみんなで「文法」について考えるいい機会が持てました。
今回はそのことについて書こうと思います。
つい、文法の説明を長々としてしまう
#まるごと日記 新人🇵🇭講師向けワークショップ。「げんき」や「みん日」などで日本語を学び、英語講師の経験もある彼ら。
一番のチャレンジは、つい、文法の説明を長々としてしまうこと。頭でわかっていても、経験が影響してしまう、と。
Can-doを軸に組み立て直して再挑戦。短時間でかなりの改善👍 pic.twitter.com/M21U5lH6ly
— ぬの★セブ🇵🇭 日本語3.0 (@wanderon100) August 3, 2019
模擬授業をやってもらった受講生のひとりが、自分の番終了後、「先生、あ~、なんか緊張して失敗しちゃいました・・。《つい、たくさん喋っちゃいました》・・」と言いました。
いや、全体的には結構よかったと思います。ただ、確かに学生が一方的に聞いている、そこそこ長い時間帯が前半にあって・・・それはCan-doを実行するための表現について細かく文法*の説明をしているものでした。
(*文をどう正しく組み立てるか、という意味での「文法」と、表現方法のフォーマットとしての「文型」は異なりますが、文型、助詞、活用、テンス、アスペクト、語順など全て含めてここでは便宜的に『文法 Grammar』という言葉を使いたいと思います。)
受講生のみなさんにとっては、《授業では、まずしっかり文法の説明をして、理解して、練習してから、さあ使ってみましょう》という流れは、今まで通ってきた道。この経験に影響される部分がなかなか拭えないのです。
でも、クラッシェンが言っているように、「学んだ文法ルールに照らして、正しさをキープしてから発話しようとすることは、とてつもなく難しい」ことです。(参考記事: 「文法は勉強しない。自然に習得する」・・1年でアラビア語をマスターしたBrown教授のドキュメンタリー(2019年5月20日))
そして、膨大な数の「文型」や複雑な言語ルールを、初級からひとつひとつ全て理解して明示的に知識として蓄積していくのは、極めて困難。
また、コミュニケーションの手段としての「文法の習得」だったはずが、逆に目的化してしまうと、つまずきや恐怖、間違うことへの羞恥心などが重なってだんだん口が開かなくなってしまいます。
ですから、母語なら言える身近なことを、身近な場面を通して日本語でも言えるようになっていく、この小さな成功体験の積み重ねが動機づけのエンジンとなって、恐れず話し続けるようになります。
『この場面で、日本語母語話者はどんなやりとりをするのか、どんな風に話すのか』を見て聴いてまずはやってみること。ジェスチャー、表情、間などの非言語コミュニケーションも含めて、シンプルでもとにかく自分の言葉としてできるようになること。正確さは何度もトライしたり復習・再学習することで、彫刻を削るように時間をかけて担保していくという考え方です。
フィードバックの代わりに講師も模擬授業
今回も、模擬授業を行った受講生へのフィードバックを、ただコメントするではなく、実際の講師自身の模擬授業に入れ込んでそれを見てもらって気づいてもらう、という方法を取りました。自分自身のチャレンジでもあります。
使ったのは、『まるごと』初級2 A2 第3課「おすすめは 何ですか」。 Can-doステートメント(授業の目標)は、「日本料理のレストランに行き、店の人におすすめを聞きながら注文できる」というものです。
ぼくがやった流れをざっと書くと、
- (スキーマ活性化)各国料理のいろいろなレストランの写真を見ながら、どんな料理があるか、よく行くか、どんなときに行くか、どんなメニューが好きか、などをみんなで話し、共有。
- (いきなりアウトプットチャレンジ)学生2人に前に来てもらい、日本料理のレストランに入るところから、お客さんと店員でどんなやりとりをするか、想像して演じてもらう(英語+日本語ミックスでOK)。※ここで言えること、言えないことのギャップを認識してもらう。
- (会話ビデオでQ&A/2回視聴)レストランに入ったところ、席に着いたところ、注文するところなど、ビジュアルで見ながら場面ごとにどんなやりとりをしているか、Q&Aしながら内容の把握と、流れの確認。(使用教材:まるごと+Webサイト)
- (教科書「まるごと」を使って一通り)教科書に目を移し、ビジュアルと音声、文字を一致させる。たくさん音声ファイル聞いてもらい、会話サンプルスクリプトでペア練習。
- (活動準備)受講生自身の仮想オリジナルレストラン、オリジナルメニューをその場でさっと作ってもらう。
- (会話活動)受講生が作った各自のオリジナルメニューを使って、《会話ビデオの流れに沿って》ロールプレイ。スマホで録音し、後で聞き直してフィードバック。
- (文法チェック)「この店で一番おすすめなのは・・」の表現の中の【の】の機能について確認し、10問ドリルで軽くチェック(使用教材:みんなの日本語初級II 第2版 書いて覚える文型練習帳)
- (再度、会話ビデオでシャドーイング)今日できるようになったことの再確認。
こんな感じですすめました。
受講生の模擬授業の際にメモしたフィードバックコメントを参照しながら、そこが分かるようにやや強調して行いました。さて、伝わることやら・・・。
受講生からの反応
(ぼくも、受講生と同じ、一教師として)自分の模擬授業に対するフィードバックをもらう感じで、受講生に感想を聞きました。
- -どうでしたか。
- 受「楽しかったです」
- -どんなところが?
- 受1「たくさん話しました」
- 受2「録音して、すぐに聞いてみるというのが勉強になりました」
- 受3「ほんとうに店に入ってやっているように、動いたのがよかった」
後半にやった活動のところに印象が集中していたようなので、「授業の全体の流れはどうでしたか。覚えていますか。」と聞き、再度振り返ってもらいました。
残念ながらぼくの力量不足で、伝わっていない細かい部分もありましたが・・・(そこは口頭でフォローしたうえで;)、
- 授業の目的がはっきりしていた
- 最初と最後にビジュアルを使って記憶に残りやすかった
- いつも(学生と)インターアクションしていた
などの+の意見があり、そのうち1人が「文法の確認が最初ではなく《終わりのほう》にあった」と気づいてくれました。
元英語教師の受講生が自身で気づいてくれたこと
そのコメントをくれたのは、セブの英語学校で留学生に英語を教えていた元英語教師のJさん。Jさん曰く、自身の英語の授業も典型的な文法中心(学校の方針)で、自分が授業で教えたことを留学生がすぐに忘れてしまうことがいつも気になっていたようです。
でも、Jさんは日本語については特に学校で勉強した経験はなく、「げんき」や、ポッドキャストを使って独学で学んだそうです。奥さんが日本人ということもあって、生の日本語に触れる機会が多いという利点はありますが、先週末のこのワークショップで改めて気づいたようでみんなの前で話をしてくれました。
「先生。先生が今日、全然文法の説明をしないまま模擬授業を進めましたが、不思議と違和感はなかったです。たくさん写真や映像を見ながら、聞いたり話したりしてかえって楽しく感じました。ワーッと会話したあと、終わりのほうに少しだけ文法の確認をしましたが、それもよかったと思います。」
そして、「文法の勉強は・・・ほとんどが自分でできると思います。(げんきなど)教科書の中にも書いてありますし、ネット上にもたくさんリソースがあります。自分もそうやって勉強してきましたから。「まるごと」をもっとよく読んで、自分の授業のストラクチャーを考え直したいと思います。」と。
そう、そこに受講生自身が自分で気づくこと、そしてそれをふまえた授業を組み立ててやってみることがとても大事で、文法のレクチャーを授業の中心や目的にするかしないかで、大きく授業のカラーが変わってくるのです。
すると、どうして反転授業が行われるようになってきたのか、どうして行動中心アプローチが注目されるようになってきたのか、またどうしてクラッシェンはNatural Approachを推奨しているのか・・・などが、するすると理解できてくると思います。
おわりに
糸井重里さんの本で、好きな一節があります。
たしかにルールは最大の見えない道具です。ルールはゲームのしくみそのものです。でもぜんぶを暗記したからといって、なにもはじまらないんです。(中略)・・・
あなたに今必要なのは、ボールを蹴ること、ボールを投げることです。目はルールブックを読むんじゃなくて、ボールの飛んでいった先の空を見るためにあるんです。
「ボールのようなことば。」 (ほぼ日文庫) 糸井重里
ルールを「文法」に、ボールを「日本語」に置き換えて読み直しながら、・・・そうだよなあ、言葉は実際に使うこと、そして楽しいと思えることだよなあといつも思うわけです。
日本語教師として、学生にいつもこの「ボールの飛んでいった先の空」を見てもらうためのお手伝いができて、そしてもっとうまく楽しくなるようにルール(=文法)を学ぼうとする姿勢を育んでいけたら最高だな、と思いながら、・・・また受講生とともに週末ワークショップを楽しみたいと思います。
それじゃ、またーー。
こんにちは。
小川と申します。
Twitterで、いつも刺激をいただいています。
ブログを読んでいて、実際にその場にいるような気持ちになりました。
10月から、職場がかわりますので、私も気分一新、色々チャレンジしてみようと思います。
また、Twitterもblogも、楽しみにしています!
ありがとうございました!
小川
いいねいいね: 1人
小川さま、いつもお読みいただき、ありがとうございます!
新しいチャレンジ、応援しています。
ぼくも日々チャレンジです。・・・ともにチャレンジを楽しみましょう! /ぬの
いいねいいね